ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 私は今、一目惚れしたピアスを眺めている。

 十八金の大ぶりのピアスだが、軽量で全面にカービングが施された美しいピアスに一目惚れしてしまった。

 ――お値段税込み二万三千六百円。

 高い。大幅な予算超過だ。だがすっごく欲しい。
 ピアスを耳にあてながらちらりと須藤さんを見たが、『自分で買え』とでも言いそうな目で私を見ている。

「須藤さん、私は葉梨と岡島と松永さんにバレンタインのチョコを渡したので、予算超過分を三人から回収するのはいかがですか?」
「バカなの? 管理職の俺がそんな事を出来ると思う?」
「諒輔くんはやれば出来る子です」
「殴るよ?」

 仕方ない。一万三千六百円は自腹を切るか、そう思った時だった。

「何揉めてるんですか?」

 振り向くとチャラ男がいた。
 黒のデニムを腰で履き、白の長袖Tシャツを着てヒゲを生やしたパーマヘアで、気合いの入った金髪ハイライトの松永さんがいた。チャラい、チャラ過ぎる――。

 ――また日サロに行ったのか。

「お疲れ様です」
「すっげー頭してんな」

 チャラ男松永にここで何をしているのか問われたが、私はチャンスだと思った。松永さんに一万円を払わせれば良いと。ならば上手い事誘導せねばならない。

「欲しいピアスがあるんですけど、交渉は決裂してます」
「いくら?」
「二万三千六百円で須藤さんの予算は一万円です」

 残りの一万三千六百円のうち、松永さんはいくら出してくれるだろうか。バレンタインは三粒で八百円のチョコレートを渡したのだ。全額は無理でも端数の三千六百円は払ってくれるだろう。

「須藤さん、俺、加藤が須藤さんに渡すチョコレートを選んでるのを見てたんですけど……」

 やはり見ていたか。しかし松永さんは私の味方らしい。

 ――頼むぞ、チャラ男松永!

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