ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 私は今、カフェの会計をする葉梨を見ている。

 財布をしまった事を確認した店員は、葉梨に白い花を渡している。
 店員は何か説明していて、それを聞いた葉梨は笑った。

 私の元に来た葉梨は、手に持った白い薔薇一輪を私にくれた。

「開店一周年記念で、女性のお客さんに白い薔薇をプレゼントしているそうです。どうぞ」
「ありがとう」

 白い薔薇――。
 そう言えば須藤さんの恋人に白い薔薇を選んだが、一本の意味は何だったか。白い薔薇の意味は何だったか。思い出せないから葉梨に聞こうと思ったが、葉梨は先に行ってしまった。だが立ち止った葉梨は私を呼んだ。

「加藤さん、これです」
「ん?」

 葉梨はカフェ入口の脇にある店名の銘板に手のひらを向けている。

 Café Rosa Blanca

「カフェ、ロサ、ブランカです」
「……スペイン語?」
「そうですね、白い薔薇という意味です」
「あはは、だからか」

 私は白い薔薇の意味を葉梨に聞いてみたが、葉梨は一瞬、目が動いた。何だろうか。

「何でしたっけ……すみません、忘れてしまいました」
「ああ、いいの。ごめんね」

 葉梨は思い出せないから動揺したのか。
 私も思い出せないから葉梨が謝る事ではない。

「葉梨、今日はありがとう」
「とんでもないです」

 葉梨は白い薔薇と私の目を交互に見て、笑っていた。




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