ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 なぜ言ってしまったのだろうか。
 これでは後輩に誕生日の祝いをやれと言っているようなものではないか。思ったことを何も考えずに口にしてしまうなんて、私は何をしているのだろうか。

「加藤さん」
「ん?」
「加藤さんのお誕生日なら、場所は俺が決めて良いですか?」
「えっ、あの、私は誕生日を祝って欲しいわけじゃないから……」
「いえ、お世話になってますから、それくらいの事はさせて下さい」

 電話口の向こうの葉梨は笑っている。
 毎年、松永さんは私の誕生日を祝ってくれるが、今年は忙しいからバレンタインデーのお返しと共に延期すると連絡があった。

「あの、加藤さん」
「なにー?」
「……確認なんですけど」
「ん?」
「えっと……加藤さんのお誕生日当日の夜に会う男が俺で良いんですか?」
「うん、会おうよ」

 ◇

 葉梨の声音はいつもと違っていた。
 優しい声だったが、なぜだろうか。

 私は久しぶりの独りの誕生日だから実家に帰ろうと予定を立てていた。葉梨と会うのなら良いだろうと思って承諾したのだが、もしかしたら葉梨は三十四歳の誕生日に予定が空いていて、後輩と飲みに行く独身女を哀れに思ったのだろうか。

 ――後輩が誕生日を祝ってくれるのは嬉しいんだけどな。

 そう思いながら、胸に宿ったうら悲しさを残りのビールで流し込んだ。
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