ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 野川が選んだカチューシャは黒だった。最初野川はショッキングピンクを選ぼうとしたが、さすがにそれは拒否した。ひと悶着あったが、黒で納得させた。

 弟さんはカチューシャについて聞いてきた。「何か思い入れがあるんですか」と。私は後輩にお揃いのカチューシャにしたいと言われた事を、紛れもない事実を伝えたのだが、デパートの店員と同じく『年下男狙い』と脳内変換したようだった。

 鏡越しに見る弟さんは今まで見たことの無い顔をしていた。職人の顔――。
 普段のカットやカラー、パーマの時には兄の松永さんが碌でもないことを言っている時の顔に良く似ているのだが、今は仕事に集中している時の顔と同じ顔をしていた。
 編み込み、みつ編み、カールアイロンと、髪の毛一本、ミリ単位で仕上げている姿に、今日の婚活パーティは私の命運がかかっているとでも思われているのだろうなと思った。

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