ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 駅に着いた。

 葉梨が指定した場所はホテルから若干遠い場所なのだが、歩けない距離ではない。
 地下鉄を降りて地上までエレベーターで行くと、目の前に葉梨の家の車があった。
 助手席側に葉梨はいて、階段を見ている。

 ――いつもと、違う。

 理容室に行ったのだろう。肌が艷やかだ。少し長めの髪を後ろに流し、ネイビーのスーツに水色のシャツ、茶色のベストに茶色のレジメンタルストライプのネクタイをしている。ポケットチーフも――。

 ――お洒落な熊だ。

「葉梨、お待たせ」

 階段を見ていた葉梨に声をかけると、私を見て驚いていた。髪を見て、ワンピースを見て、顔を見て、やっと笑顔になった。

「加藤さん、いつも以上に美しいですね」
「んふふっ、ありがとう。葉梨もいつもと違ってびっくりしたよ。よく似合ってる」
「ありがとうございます」

 そう言って、葉梨は助手席のドアを開けてくれた。
 運転席に座った葉梨は私の顔を見て、「お誕生日おめでとうございます」と言った。

 ◇

 車を走らせたが、五分ほどでそのホテルに着いた。
 だが駐車場ではなく、ホテル入口の車寄せまでだった。葉梨はシフトノブをパーキングに入れ、サイドブレーキを引き、シートベルトを外している。助手席にはドアマンが近づいてきてドアを開けてくれた。
 葉梨も降りた。

 ――バレーサービス、か。

 歩いて来るホテルではないから葉梨は車にしたのか。
 ドアマンは葉梨の名を呼んでいる。
 お父様の車で来てるからこのドアマンは覚えていたのだろう。葉梨はいいところの坊ちゃまだ。だが私は高卒地方公務員。こんな高級ホテルは結婚式で招かれない限りは来れない。警視庁本庁に近いがご縁が無い場所だ。
 私はワンピースを新調して、美容師の職人技が光る頭にして本当に良かったと思った。

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