ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 エレベーターは十九階まで私たちを運んでいく。

「葉梨はこのホテルはよく使うの?」
「えっ、ああ……年に一、二度、使っていました」

 ――過去形、か。恋人と来ていたのだろう。

「両親は結婚記念日に、いつもここで食事しています」
「ああ、そうなんだ」
「両親はここで結婚式をしたので」
「んふふっ……そっか。いいね、素敵なご両親だね」

 私を見る葉梨は優しく微笑んでいる。
 夫婦仲の良いご両親に育てられた葉梨は良い子だ。

「俺も、ここで結婚式をしたいと思っています」
「んんっ!?」

 ――葉梨に恋人が出来たとは岡島から聞いていないが、出来たのだろうか。

「でも、相手の希望を優先しますけどね」

 そう言って私の顔を見た葉梨と目が合ったが、葉梨は目をそらした。なんだろうか。恋人の事は聞かない方が良いのか。

 妙な空気が流れるエレベーターはフレンチレストランのある十九階に到着した。


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