ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第33話 ハンカチと香水とマティーニと

 バーラウンジに入ると、スタッフが葉梨の元へ案内してくれた。

 窓際のカウンターに座っていた葉梨は立ち上がり、私を見た。ピアノの調べが流れ、心地よい雰囲気で満たされた店内は淡い照明に包まれている。夜景を背にした葉梨がなんだかイイ男に見えた。飲み過ぎたのかも知れない。

 葉梨とエレベーターに乗った時、スーツがものすごく上質だと気づいた。葉梨は背が高く大柄だから普段のスーツはセミオーダーだと言っていたが、今日のスーツはフルオーダーだ。ワイシャツもだろう。袖から出るワイシャツが完璧なバランスだ。

 ――私の誕生日だから、ここまでしてくれたんだ。

 頬が緩む。
 後輩が私を慕ってくれているのだ。
 警察組織にいる者として、求められる事から逃げていた私は逃げないと決めた。葉梨を育てると決めて何とかやって来た。
 その結果が今日なのだろう。
 これで良いのだと認められた気がした。

「お待たせ」
「お待ちしておりました」

 カウンターの椅子を引き、私を座らせた葉梨は右隣に座ったが、ある事に気づいた。

 ――ここでも、葉梨しか見えない。

< 190 / 257 >

この作品をシェア

pagetop