ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 葉梨が手に取るとウエイターは去った。

「花束?」
「あの、誕生日プレゼントです。どうぞ」
「ああ、ふふっ、ありがとう」

 葉梨は、先月行ったカフェで白い薔薇の意味をど忘れしたから調べたと言う。
 須藤さんが恋人に渡した薔薇の花束も白だったが、上司や先輩に渡す薔薇の花束も白い薔薇が良いらしい。

「白い薔薇には『心からの尊敬』という意味もあるようです」
「そうなんだ。ありがとう葉梨」
「とんでもないです」
「……そろそろ、帰りましょうか」
「うん、そうだね」

 ウエイターを呼んだ葉梨は伝票にサインをして、クロークに預けた私のカバンを受け取り、私に渡してくれた。

 バーラウンジを出た私たちはエレベーターに乗り込んだ。

 私にはやらなくてはならない事がある。
 どのタイミングで葉梨に言い出すか、葉梨の様子をちらりと見た。

 ――総額、いくらだったんだ。

 葉梨は伝票に部屋番号を記入していた。精算はチェックアウト時だ。
 レストランとバーラウンジで、総額いくらなのか、庶民の私は必死に計算をした。

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