ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 葉梨の実家は太いから何かしらの援助はあるのかもしれないが、それならば尚更、先輩として許容してはならない。こんな事をしていたら先輩にいいように扱われてしまう。警察官全員が品行方正なわけではないのだ。

「そうはいかないよ、葉梨」

 そう言って私はカバンからお財布を出したが、いつもと声音の違う葉梨の声に私の動きは止まった。

「お財布をしまって頂けませんか」

 ああ、葉梨は男なんだった。
 私は今、現金を出すべきではないのだ。だがどうすれば良いのだろう。どうすれば葉梨は納得してくれるのだろう。後日、封筒に入れて返せば良いのか。

「加藤さん、聞いて頂けませんか?」
「えっ?」
「去年の夏、俺、彼女と別れたんです。だから……彼女と別れて金の使い道が無いんです」

 俺の誕生日も一緒に過ごしてくれますか――。

 葉梨は恋人と別れたから、私を口説いたのか。
 私はふと玲緒奈さんの言葉を思い出した。

『敦志はね、私以外の女に男を見せない』
『女を勘違いさせない為に男を見せない』

 ――恋人以外の女には男を消す男がいい男だ。なら……。

「葉梨はいい男だ」

 私は思ったままを口にしていた。直さなくてはならないとは思うが、なかなか直せない。
 葉梨は固まっている。

「葉梨、ごめんね、言葉足らずで本当にごめん」
「いえ、あの……」
「えっと、葉梨と初めて会った日から、今まで見てきて、私は葉梨がいい男なんだって、思った。誕生日を祝ってくれたからじゃないよ」

 見上げる葉梨は、耳を赤くして照れていた。

「ありがとうございます。すごく嬉しいです」

 ――可愛いな。

 いい男の葉梨に素敵な出会いがあれば良いなと、心から思った。

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