ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第37話 防犯講話とアヒル口と公営ヤクザと

 六月十三日 午前九時十五分

 私は今、上司のチンパンジーから見つめられている。

 今日は十時から町内会主催の防犯講話を行うのだが、いつも須藤さんと一緒に行っている本城が入院中で私が代わりに行くことになった。
 その連絡を須藤さんから受けた時、出席者の多くは高齢者だから年寄りウケする服装で来いと言われた。

 ――どんな服装だ。

 私は悩んだ。
 ネットで検索したが、オジさん向けの記事がほとんどで参考になる記事は無かった。
 オジさんが若い女の子からダサいと言われない為のファッション指南の記事ばかりだったのだ。
 興味本位でその記事を読んでみたが、オジさんをオバさんに変えたら大炎上間違いなしな内容だった。
 私は思った。オジさん、頑張れ。いろんな意味で、と。

 ネットは参考にならなかったから、クローゼットにある手持ちの服を見て、清楚系でいこうと決めた。
 ネイビーのフレアースカートのワンピースで、つけ襟は白だ。お上品な感じだろう。
 髪はこのところブラウンに染めているから、朝っぱらから面倒だったがホットカーラーで巻き巻きしてカールアイロンでも巻き巻きの髪型にした。これはあれだ。ゆるふわカールで愛され女子だ。男ウケ抜群の――。

 そしてその頭で上司のチンパンジーの元へ行ったのだが、見つめられている。チンパンジー受けはしていないようだ。

「……おはよう」
「おはようございます」

 清楚系であれば老若男女問わずウケが良いだろうとは思ったのだが、須藤さんはこれまで見たことの無い反応をしている。どうしたのだろうか。

「……行こうか」
「はい」

 刑事課には数人の課員がいるが、皆私を見て何も言わない。私は可愛いとか言われたいのではないが、何か言ってもらわないと困るのだ。
 防犯講話にこの格好はダメだったのだろうか。

 誰も目を合わせてくれないから私は須藤さんの後をついて行った。

< 212 / 257 >

この作品をシェア

pagetop