ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
「おー、加藤じゃねえか、久しぶりだな」

 応接室の上座に腰を掛け、私たちを指差して座れと促すクソジジイ――。
 須藤さんからは事前に聞かされていたが、再就職したここでも相変わらずなのか。

 このクソジジイは須藤さんの先輩にあたり、結婚して子を産んでも働く玲緒奈さんをイジメていたクソジジイだ。むーちゃんも酷い目に遭っていた。

「ご無沙汰しております」
「ふふっ、須藤は良いなあ、自分好みの女を部下に出来てよ」
「あー、ははっ」

 努めて明るくしている須藤さんだが、キレている。須藤さんがセクハラを絶対にしない理由がこのクソジジイだからだ。

 このクソジジイは総務課所属だから石川さんも被害に遭っているのだろうか。お茶を出そうとしている石川さんが微かに眉根を寄せている。
 この会社は警察、自衛隊、消防からの再就職がいる。出身が役所だと転勤や転属は無いから、社員は我慢するしか無い。可哀想に。

「加藤はまだ結婚してねえの?」
「はい」
「行き遅れじゃねえか。ふふっ、須藤が貰ってやれよ」
「ははっ……」
「須藤は加藤が好みだろ? 痩せぎすの茶髪パーマでキツい顔の女。別れた嫁もそうだったよな?」
「ああ、まあ……」

 石川さんはお茶を出して下さったが、手が震えている。たまにやって来る面識のある警察官の好みの女だとか離婚歴があることとか、そんな話は聞きたくないだろう。
 ジェントルポリスメンの須藤さんも石川さんの挙動に気づいて、怒りは増している。

 ――いますぐおうちに帰りたい。

 普段、須藤さんのお供は本城だが、本城はお調子者でこのクソジジイに上手く取り入っている。だが今日はいない。
 美味しいサンドウィッチを自分で作ろうとして、半熟たまごで食あたりになって入院中の本城を私は恨んだ。

 ――あの人当たりの良い反社さえいれば。

 顔を伏せる石川さんを見て目を彷徨わせている須藤さんが可哀想だと思った。

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