ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
「野川は何食べる?」

 そう優しい声音で語りかける葉梨は、私たちにも希望のスイーツを聞いた。
 葉梨は、『素パンケーキ〜微量の生クリームとカラフルチョコを添えて〜』を完食した。葉梨も若干、口の中がモッサモサだったようだ。

 野川は先輩にスイーツを持って来てもらう事を頑なに拒んでいる。気持ちはわかるが、私たちもポンコツスイーツを拒みたい。

「なら私も行きます! 葉梨さん、一緒に行きましょう!」

 そう言って二人は席を立ち、歩いて行った。身長差三十センチの二人は大人と子供のようだ。
 あれだけ身長差があると、葉梨は真横にいる野川が視界に入らず見えないだろう。小さくて可愛い野川が――。

「葉梨のね、別れた女も野川みたいな清楚系の小さい子だったんだよね」
「そうなんだ」

 ――葉梨も小さくて可愛い女の子が好きなのか。

 山野もそうだ。
 でも葉梨は私に……でかい女の私に……。

「ふふっ、葉梨、見てよ、楽しそう」
「えっ?」

 野川は私のチョコバナナパフェを作ろうとシリアルをすくったが、葉梨が何かを言い、半分ほど戻していた。そしてパフェグラスに入れ、葉梨を見上げた。葉梨は優しい笑顔を向けている。

「野川って男いるの?」
「……最近、別れたみたい」
「ふーん、なら葉梨に野川、良いんじゃない?」

 岡島は葉梨と野川の姿を見て頬を緩ませている。
 葉梨が野川に向ける笑顔は私の誕生日の時の笑顔と同じだ。あれから葉梨は何も言わない。何も言わないから、私も何も言わないでいる。私が何か言えば変わるのだろうか。

 葉梨は、野川がパフェにチョコレートソースをかける姿を心配そうに見ている。

 ――あ、失敗した。また手にぶっかけてる。

「ふっ、本当に野川ってポンコツだ」
「うん、でも、よくやってる。努力家だよ」
「そうだね、俺もそう思うよ」

 葉梨は野川の背後からパフェを受け取った。だが野川は葉梨の手にもチョコレートソースをかけてしまった。野川は真上の葉梨を見上げ笑っている。
 葉梨は真下を向いて困ったように笑った。

 ――私が同じ事をしても、葉梨は手を拭くものを取りに行くだけだろうな。

 楽しげに笑いながらこちらに戻って来る二人を眺めながら、少しだけ息を吐いた。

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