ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
私は今、会計で揉めている。
葉梨と野川を店外に出したが、野川は私が連れて来たのだから野川分を私に出させようとする岡島に、私はゴネている。
「ケチ」
「葉梨と奈緒ちゃんの分は出すよ」
「ケチ。野川は可愛い後輩でしょ?」
「その言葉、熨斗つけてお返しする」
「もうっ!」
仕方ない。払うか。パシリとして連れて来たのは私だ。
岡島は養育費を払っているが、離婚時に決めた額と同じ額を上乗せして払っている。ボーナスは半分を渡しているという。面倒な官舎住まいを続けているのはそのせいだ。微妙にカネが無いから。
私は岡島にお金を渡して店外に出ようとしたが、葉梨と野川が楽しげに話している姿に歩みを止めた。
「どうしたの?」
会計を終えた岡島は店外の二人を見て、察したようだ。
「邪魔は、したくないね、ふふっ」
「うん」
「行こう、奈緒ちゃん」
私たちは店を後にした。
「お待たせ。野川さ、これもらったよ」
「ああっ! 可愛い!」
「あげるよ」
岡島は会計時にボールチェーンマスコットの小さなぬいぐるみを四つもらっていた。
葉梨に二つ手渡して私と分けるように言い、岡島は色違いの二つとも野川にあげていた。
「岡島さんはお子さんがいらっしゃるんですよね? 一つはお子さんに差し上げれば……」
「ああ、うちは男の子だから」
「そうですか……」
歩き出した二人を見ながら、葉梨は私に一つ渡して来た。葉梨も持っておくのか。可愛いキャラクターマスコットなのに。
「……ババアには可愛すぎるかと思うけど」
「加藤さん」
少しだけ低い声だった。
葉梨を見ると、私を咎めるような、そんな目をしていた。
「大人の女性が可愛いものを持っていても、俺は良いと思います」
「ああ、うん……そうだね」
――自虐もほどほどにしないと後輩が困る、か。
葉梨は口元を緩めると、「同じ色です」と言った。
私と葉梨のマスコットキャラクターは同じ色だ。野川は違う色の色違いを持っている。
「俺は、加藤さんと同じ色を持っていたいです」
私の目を見て微笑む葉梨は視線を外し、歩き出した。
――同じ色、か。
また、葉梨は意味を込めたのだろうか。
少し先を行く葉梨を、私は追いかけた。
葉梨と野川を店外に出したが、野川は私が連れて来たのだから野川分を私に出させようとする岡島に、私はゴネている。
「ケチ」
「葉梨と奈緒ちゃんの分は出すよ」
「ケチ。野川は可愛い後輩でしょ?」
「その言葉、熨斗つけてお返しする」
「もうっ!」
仕方ない。払うか。パシリとして連れて来たのは私だ。
岡島は養育費を払っているが、離婚時に決めた額と同じ額を上乗せして払っている。ボーナスは半分を渡しているという。面倒な官舎住まいを続けているのはそのせいだ。微妙にカネが無いから。
私は岡島にお金を渡して店外に出ようとしたが、葉梨と野川が楽しげに話している姿に歩みを止めた。
「どうしたの?」
会計を終えた岡島は店外の二人を見て、察したようだ。
「邪魔は、したくないね、ふふっ」
「うん」
「行こう、奈緒ちゃん」
私たちは店を後にした。
「お待たせ。野川さ、これもらったよ」
「ああっ! 可愛い!」
「あげるよ」
岡島は会計時にボールチェーンマスコットの小さなぬいぐるみを四つもらっていた。
葉梨に二つ手渡して私と分けるように言い、岡島は色違いの二つとも野川にあげていた。
「岡島さんはお子さんがいらっしゃるんですよね? 一つはお子さんに差し上げれば……」
「ああ、うちは男の子だから」
「そうですか……」
歩き出した二人を見ながら、葉梨は私に一つ渡して来た。葉梨も持っておくのか。可愛いキャラクターマスコットなのに。
「……ババアには可愛すぎるかと思うけど」
「加藤さん」
少しだけ低い声だった。
葉梨を見ると、私を咎めるような、そんな目をしていた。
「大人の女性が可愛いものを持っていても、俺は良いと思います」
「ああ、うん……そうだね」
――自虐もほどほどにしないと後輩が困る、か。
葉梨は口元を緩めると、「同じ色です」と言った。
私と葉梨のマスコットキャラクターは同じ色だ。野川は違う色の色違いを持っている。
「俺は、加藤さんと同じ色を持っていたいです」
私の目を見て微笑む葉梨は視線を外し、歩き出した。
――同じ色、か。
また、葉梨は意味を込めたのだろうか。
少し先を行く葉梨を、私は追いかけた。