ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 シャバの須藤さんは警察官の雰囲気を消すのが上手い。
 防犯講話ではよそ行きスマイルのジェントルポリスメンで、出席者からは人気だ。
 いつもお付きで防犯講話に行く本城もそうだ。
 普段の彼の見た目は反社だが、シャバでは愛嬌のある爽やかな笑顔の反社だ。

 だが今日も本城はおらず私たちが行くしかないのだが、ゴリラと熊のハイブリッドとアヒル口が出来ないババアで防犯講話はマズいのではないかと思う。思うが、チンパンジーが萎びている以上、仕方のない事だ。

「奈緒ちゃんはパンツスーツなんだね」
「えっ、はい」

 ――マズかったのだろうか。

 前回同様に万人ウケするネイビーのワンピースにしようと思ったが、午後は松永さんと動くからパンツスーツにした。
 松永さんは黒のタイトスカートのスーツ、白いシャツ、黒いストッキング、七センチのヒールにして欲しいと言っていたが、完全にウラがありそうだからライトグレーのパンツスーツにしたのだ。

「俺さ、奈緒ちゃんのパンツスーツ姿って好きなんだよ」

 ――おや……? これは……。

 ちらりと間宮さんを見ると、いつでも動ける体勢を取っていた。判断が早い。背後にいる課員の空気が変わった。

「髪もさ、ロングの茶髪パーマが好きだけど、黒髪ストレートも最近は好きなんだよね」

 パワハラはするがセクハラはしないはずの須藤さんがセクハラしそうになっている。完全にアウトだ。間宮さんはどうするか。
 ちらりと間宮さんを見ると、既に須藤さんの背後にいた。判断が早い。

「奈緒ちゃんの黒髪ストレートも良――」

 間宮さんはもう仕留めていた。
 須藤さんの椅子の背もたれを掴み、左手で頸動脈を軽く押さえて落とした。

 通常であれば、大柄な間宮さんでもチンパンジーは動じない。今と同じ時間内で間宮さんは床に転がっている。だが萎びたチンパンジーには無理だった。
 間宮さんのお陰でパワハラはするがセクハラはしない須藤さんがセクハラをせずに済んだ。間宮さんは本当に判断が早い。グッジョブだ。

 須藤さんを抱えた間宮さんはソファに行き、須藤さんを寝かせた。

「お前らさ、須藤さんが起きたらまたシメとけよ」
「はい!」

 間宮さんは席に戻り、防犯講話の書類をまとめてカバンに入れ、私の元に来た。

「加藤、行こうか」
「はい」

 須藤さんを仕留めた喜びを隠しきれていない間宮さんは、私に微笑んだ。

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