ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第43話 スキップと鬼子母神と脳筋課長と

 九月三十日 午後五時三十六分

 私は今、スキップをしている。

 自宅でDVDをスキップしているのではない。署の廊下でスキップをしている。
 私と手を繋ぎ、同じくスキップしているのは組織犯罪対策課所属の男性警察官だ。

 数年前、独身警察官を次々と妊娠させるとして全署出禁になった私は今、不妊に悩む警察官から鬼子母神奈緒として歓迎されている。
 出禁よりはマシだが、どうしてこうなった。

 事の発端は、交通捜査課の福岡から相談を受けた事から始まる。
 彼から不妊に悩む課員がいると相談を受けた。
 鬼子母神奈緒は独身警察官を次々と妊娠させたのだから、不妊に悩む男性警察官も子宝に恵まれるのではと彼は言ったのだ。

 どこをどうしたらそんな結論になるんだと言いたかったが、子宝に恵まれないと悩む課員とその奥様は様々な事をやったのだろう。藁にも縋りたいのだ。私は藁でも良いと思った。それで気が済むのなら良いじゃないか。私はそう思った。

 そしてその交通捜査課員と会ったのだが、署の廊下で私たちは見つめ合った。双方、何をすれば良いかわからなかったから。
 ならばと裏の公園で一緒に走ろうかと提案したが、私の足の速さを知っている彼はダメだと言う。仕方がないから二人でスキップをした。双方意味がわからなかったが、とりあえずやってみたのだ。
 署の五階は交通捜査課と刑事課があるが、長い廊下で彼もまさか職場で先輩とスキップするとは思わなかっただろう。私も後輩とスキップするとは思わなかった。

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