ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 そして二ヶ月後の七月、奥様のご懐妊が発覚し、彼は須藤さんを通してお礼に来た。
 その後、鬼子母神奈緒の噂はまたたく間に広がり、不妊に悩む警察官から須藤さん宛に連絡が来るようになった。
 須藤さんが夏に萎びていたのは、鬼子母神奈緒のせいでもある。おそらく二割ぐらいだ。

「スキップ、もしかして出来ない?」
「バレました? ふふっ」

 鬼子母神奈緒とスキップすると子宝に恵まれると噂になり、ここ二ヶ月で十二人の警察官とスキップしてきたが、これまでに三人がスキップが出来なかった。彼で四人目だ。
 スキップが出来なくても警察官になれると、スキップが出来ない警察官志望者に教えてあげたいと思った。

「ふふっ……でも、よく課長は許してくれましたね」
「ええ、私も驚きました。ダメかと思ったんですけど」

 須藤さんは鬼子母神奈緒の噂を聞きつけた警察官からの問い合わせに頭を抱えていたが、上席を通して鬼子母神奈緒の来署を要請しろと伝えた。

 私など、しょせんは藁だ。だが部下の悩みに心を寄せて、須藤さんに連絡をしてくれる管理職が誰なのかを須藤さんは把握出来るのだ。そんなもの、と一笑に付し、何もしない管理職が誰なのかも、もちろん把握出来る。
 チンパンジーは萎びてもタダじゃ起きない奴なんだなと、私は思った。

「加藤さんの噂は聞いていました」
「鬼子母神奈緒?」
「ええ、それとすごい美人だと」
「んふふっ、ありがとう……でも狂犬加藤でもある」
「ふふっ、ええ、玲緒奈さんの舎弟だとも知ってます」
「ふふふ……」

 一緒にスキップすると奥様が妊娠すると噂の女性警察官がいると奥様に話した。
 奥様はやって欲しいとご主人にお願いして、それを聞き入れたご主人。頼んでみると奥様に伝えたのかも知れない。
 どちらにせよ、なんて良い夫婦関係なのだろうかと思う。
 奥様を思いやり、上席に相談し、上席が心を寄せてくれ、私の来署を待っていた。
 彼も子宝に恵まれたら、私も嬉しい。


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