ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 去り行く彼の背中を見ながら、岡島は話始めた。

「奈緒ちゃんを飲み会に連れて来いって言う奴がすっごい増えた」
「間宮さんからも聞いてる」
「俺では断り切れない人もいる」
「……ごめんね」
「あー、うん……どうしよう」

 信頼と実績の間宮さん経由では無茶ぶりされてダメだからと、岡島を利用したのだろう。岡島では断りきれない相手なら、実力行使しかない。

「玲緒奈さんに言おう」
「ダメ。やめて。死人が出る。仕事が増える」
「ふふふっ……」

 岡島は私を見て、困ったような顔をしている。
 私は今でも、守られている。いつまで続くのだろうか。

「奈緒ちゃんが早く結婚してくれれば良いのに」
「相手がいない」
「じゃあ俺と結婚する?」
「離婚歴のある人は嫌だよ」
「じゃ、誰かに養子縁組してもらって戸籍をまっさらにする」
「バカなの?」
「ならさ、そろそろ俺の事を『くん付け』して呼んでよ」
「やだよ」
「奈緒ちゃんと直くん、いいじゃん、お願い」
「殴るよ?」

 いつものやり取りだなと思いながら葉梨を見ると目が合った。
 笑うわけでもなく、私をただ見ている。
 なんだろうか。そう思いながら首を傾げると、葉梨は口を開いた。

「次にお会いする日の件で、改めてご連絡します」
「え、うん。わかった」

 九月はお互いに忙しく、予定を先に伸ばしてもう九月最終日だ。
 私は笑顔で答えたが、葉梨は笑わない。どうしたのだろう。

「組織犯罪対策(そたい)課に須藤さんを迎えに行ってくる」
「うん。奈緒ちゃんまたね」
「葉梨、連絡待ってるね」
「はい!」

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