ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第45話 最終話 納税とパラダイスと勝負と

 十月二十八日 午前十一時三十分

 私は今、納税の義務を果たした自分を褒めている。

 自宅から徒歩十二分の場所に運動公園が出来たのだが、雑居ビルと中古車販売店の間にある謎の小道を進み、階段を上がるとそこにはこの世の楽園(パラダイス)があった。

 運動場があり、その外周は幅員三メートルのマラソン用に整備された道、総距離二キロだ。
 植栽も水路も美しく整備され、季節の移ろいを感じながら走れるのだ。

 ――税金が、私の為に使われた。

 嬉しい。
 私はきっと頬が緩んでいるのだろう。隣の葉梨が若干、後退りしている。

「んふふ……葉梨、教えてくれてありがとう」

 この運動公園は葉梨の実家側にあり、私は存在を知らなかった。
 葉梨と先月末に署で会った時、次に会う日を連絡すると言っていた。翌日に連絡が来て、この運動公園で走りませんかと誘われたのだ。

 今日は葉梨の実家へ行き、荷物を置いて手ぶらで運動公園にやって来た。
 昼はお弁当をここで食べると言う。
 この運動公園は木陰が多く、涼しい風が吹いている。夏が終わって、秋の気配がする今日この頃だ。

 ――ああ、なんて気持ちが良いのだろうか。

 この幸せを噛み締めていたいけれど、そうもいかない。

「走ろう」
「はい」

 葉梨と走るのはあの日以来だ。
 玲緒奈さんが敦志さんを『むーちゃん』と呼んでいる事を知り、年末でもないのに笑ってはいけない先輩宅を必死に耐え、駅まで向かう道を走った時以来だ。
 あの時私は全力で葉梨を追い抜いたが、今は違う。ランニングだ。会話が出来る程度で並んで走っている。

 葉梨は白いTシャツ、黒いハーフパンツ、黒いロングタイツ姿だ。
 私は白いTシャツ、黒いハーフパンツ、黒いロングタイツ姿だ。

 ――同じだ。

「多分さ、お揃いだよね?」
「そんな気がします。ふふっ」

 私達は、まるで示し合わせたかのように同じブランドのランニングウェアを着ていると思うと可笑しかった。

 マラソンコースを走り抜けて、一周した。

< 253 / 257 >

この作品をシェア

pagetop