ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 玲緒奈さんの自宅に着き、私たちは呼吸を整えた。

「……頑張ろう」
「はい……」

 葉梨と出会い、初めて心が通じ合った瞬間だなと思いつつ、インターフォンを押そうとしたその瞬間――。

「何を頑張るの?」
「ひっ!」

 インターフォンとポストがある塀の向こうから玲緒奈さんが姿を見せた。刈込鋏を手に持って――。

「ごめん、もう時間か、ごめんね」

 庭木の手入れをしていた玲緒奈さんは時間をよく見ていなかったという。隣の葉梨は固まったままだ。

 刈込鋏を手に持つ玲緒奈さんに誘われ、玄関に入るとシューズボックスの上に小さい狸の置物があった。あの居酒屋にあった初代の狸だ。

「玲緒奈さん、これ、直ったんですね」
「そうそう」

 玲緒奈さんが破壊した小さい狸の置物は、玲緒奈さんの真ん中の息子さんが直したという。見事に直っていた。
 あの日、玲緒奈さんは狸の置物の欠片をダンボールに入れて持って帰り、電車の中で隣り合った人に狸の置物の欠片を見せて笑っていた。

「今日ね、うちの人もいるのよ。でもこの後、仕事なんだけどね」

 ――敦志さんがいらっしゃるのか。

 久しぶりにお会いするなと思っていると、玲緒奈んは室内に向かって大きな声で叫んだ。

「むーちゃーん!」

 ――犬? 飼ってたっけ?

「なにー?」

 久しぶりに聞くその声の主は松永敦志さんだった。
 敦志さんは廊下の奥の部屋から顔を出したが、玄関に私たちがいる事に動揺した。玲緒奈さんは振り向かずに後ろにいる私たちの気配を覗っている。これはもしかして――。

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