ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第6話 秘密と油断と直くんと

 四月十九日 午後六時三十五分

 いつもの事だが、玲緒奈さんは門扉の前で私たちの姿が見えなくなるまで見送ってくれる。
 松永家はちゃんとしたお宅だ。途中でお子さんも帰宅して、真ん中の息子さんと下のお嬢さんも一緒に私たちを見送ってくれた。

 私たちは玲緒奈さんらに別れを告げ、曲がり角で立ち止まり、再度挨拶した。そして曲がり角に一歩踏み出した瞬間に走り出した。全力で走った。
 一秒でも早く玲緒奈さんから、玲緒奈さんの家から、居住エリアから逃げたいと思って走った。

 あの玲緒奈さんが夫を『むーちゃん』と呼んでいるなんて思いもしなかった。
 年末でもないのに『笑ってはいけない先輩宅』とはどういう事だ。私たちはギリセーフだったが、当のむーちゃんは後輩の私たちを置いて逃げたし、歯を食いしばっていた葉梨はものすごい目ヂカラでガラの悪い中堅構成員みたいだったし、私はずっと太ももに爪を立てていたからちょっと痛いし。なぜこんな思いをしなければならないのか。私はそう思った。

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