ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
今日は葉梨と私の二人だけの符牒を決める為にこのバルの個室に来たが、ここでは無理だと悟った。
その理由について葉梨は個室に入った時点で理解した。眉根を寄せた葉梨に店長は少し怯えた。
「この店の事はさ、直接、岡島に報告してよ」
「はい」
個室に防犯カメラを天井に設置するのは良いが、テーブルの下が収まる位置のカメラは何だろうか。
もちろん顔が入る位置にもある。隠してはあるが、私と葉梨はすぐに分かった。
だから私たちはハンドサイン等の符牒を今決めるわけにはいかない。
――今日はやめておこう。
葉梨は岡島ともこの店に来るが、プライベートでも来た事があり、この個室を利用した三ヶ月前には天井以外のカメラは無かったと言う。
「カラオケも防犯カメラあるし、どうしよう。二人きりになれる静かな場所って、どこかある?」
葉梨はこの質問をするといつも固まる。なぜだろうか。
「あの、官舎にいらし――」
「嫌だよ」
「ですよね」
松永さんと相澤の官舎なら良い。だが岡島が住んでいる葉梨の官舎には行きたくない。かと言って私のマンションに葉梨を招くのは良くないだろう。どうしようか。
「あ、あの加藤さん」
「なにー?」
「俺の実家、はいかがでしょうか。犬、いますけど」
「うん、犬、好きだよ」
私がそう言うと葉梨は微笑んだ。
先月、葉梨はモメラニアンの写真を二枚送ってくれた。
歯を剥き出して揉めているモメラニアンの躍動感溢れる写真と、新入りのウニちゃんの寝顔だった。
「ポメちゃんに会うの、楽しみ」
「……可愛いですよ」
私は頬を緩ませている葉梨を微笑ましいな、と思いながら眺めていた。こういった個人的な話も、葉梨を知る為には必要な事だと思う。
「あのね、私の実家にも犬がいてね、名前はマロン。スペイン語で茶色はマロンだから」
「そうなんですか。可愛いですか?」
「うん、よく犬小屋の周りの土を掘ってね、犬小屋を倒壊させるアホな子で可愛いよ」
「んふっ」
倒壊させるたびに画像が送られてくる泥だらけのマロンを思い出して、私も頬が緩んだ。
その理由について葉梨は個室に入った時点で理解した。眉根を寄せた葉梨に店長は少し怯えた。
「この店の事はさ、直接、岡島に報告してよ」
「はい」
個室に防犯カメラを天井に設置するのは良いが、テーブルの下が収まる位置のカメラは何だろうか。
もちろん顔が入る位置にもある。隠してはあるが、私と葉梨はすぐに分かった。
だから私たちはハンドサイン等の符牒を今決めるわけにはいかない。
――今日はやめておこう。
葉梨は岡島ともこの店に来るが、プライベートでも来た事があり、この個室を利用した三ヶ月前には天井以外のカメラは無かったと言う。
「カラオケも防犯カメラあるし、どうしよう。二人きりになれる静かな場所って、どこかある?」
葉梨はこの質問をするといつも固まる。なぜだろうか。
「あの、官舎にいらし――」
「嫌だよ」
「ですよね」
松永さんと相澤の官舎なら良い。だが岡島が住んでいる葉梨の官舎には行きたくない。かと言って私のマンションに葉梨を招くのは良くないだろう。どうしようか。
「あ、あの加藤さん」
「なにー?」
「俺の実家、はいかがでしょうか。犬、いますけど」
「うん、犬、好きだよ」
私がそう言うと葉梨は微笑んだ。
先月、葉梨はモメラニアンの写真を二枚送ってくれた。
歯を剥き出して揉めているモメラニアンの躍動感溢れる写真と、新入りのウニちゃんの寝顔だった。
「ポメちゃんに会うの、楽しみ」
「……可愛いですよ」
私は頬を緩ませている葉梨を微笑ましいな、と思いながら眺めていた。こういった個人的な話も、葉梨を知る為には必要な事だと思う。
「あのね、私の実家にも犬がいてね、名前はマロン。スペイン語で茶色はマロンだから」
「そうなんですか。可愛いですか?」
「うん、よく犬小屋の周りの土を掘ってね、犬小屋を倒壊させるアホな子で可愛いよ」
「んふっ」
倒壊させるたびに画像が送られてくる泥だらけのマロンを思い出して、私も頬が緩んだ。