ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第12話 惚気とカステラと公務員住宅と

 六月十五日 午後一時二十分

 今日は葉梨の実家に訪問予定だが、その前に玲緒奈さんの家に来ている。

 あの日、むーちゃんの件に一切触れなかった玲緒奈さんは、今日はずっとむーちゃんの話をしている。
 笑ってはいけない先輩宅再びなのかと思ったが、そうではなかった。

 ダイニングテーブルの席に座り、キッチンでお茶の準備をする玲緒奈さんを見ているが、なんとなく機嫌がよさそうに見えた。

「敦志でむーちゃんって、何でよって思うんだけど、私も何でか分かんないのよ」

 ――お前は何を言っているんだ。

 キッチンに近い私の右手に座った玲緒奈さんからお茶を頂き、玲緒奈さんはダイニングテーブルに置かれたカゴに手を伸ばした。
 私はそれを見ながら問いかけた。

「玲緒奈さんは敦志さんと仲良いですよね」
「うーん、喧嘩はしないね」

 警察学校に入ったばかりの敦志さんに、一つ年上の玲緒奈さんは「あんたの嫁になる」と言って交際を始め、玲緒奈さんが二十二歳の時に結婚したそうだ。

「あんたさ、むーちゃんって、言ってみ」
「……むーちゃん、むーちゃん、むーちゃん」
「口論になった時、むーちゃんって言うと、何かバカらしくなると思わない?」

 ――バカはおま、なんでもないです。

「仕事も同業だし、先輩後輩だし、多少は揉める事もある。けど、むーちゃんって呼ぶようになったら、そんなに揉めなくなったんだよね」

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