ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 玲緒奈さんは私の指導員だったが、初めて会った時は第二子の産休明けすぐだった。
 お子さんは玲緒奈さんのお母様と、松永さんのお母様が一緒に見てくれていたという。
 だがそれを良しとしない先輩からは陰口を叩かれていたし、新人の私にも悪意を持って同意を求めるような事を言われた。
 それに夫は敦志さんで義弟の敬志さんもいた。義父も現職だった。
 この松永家を良く思わない先輩達から、当時二十六歳の玲緒奈さんは格好の餌食になっていた。涙を流す姿は見た事は無い。無いが、目を赤くしている姿を見たのは、一度や二度ではない。

 警察官で、仕事、勉強、新人育成、子育て、家事、そして警察官の妻を、若い玲緒奈さんはやっていたのだ。その時の玲緒奈さんの年齢を経た私は、自分の未熟さに呆れてしまう時がある。

 カゴの中の、袋を洗濯バサミで留めてあるお菓子を次から次へと私の前に置き、皿の上に取り出している玲緒奈さんだったが、ふと手を止めた。

「ねえ、裕くんにさ、そろそろ想いを伝えたら?」
「えっ……」
「もう三十二歳だよね? そろそろ、さ……」

 玲緒奈さんは私がずっと相澤に片思いをしている事を知っている。これまで何度も、「あんたが言わないなら私が言う」と言われたが、その都度断っている。
 私は相澤が好きだが、想いを受け入れられなかった時に相澤を失うのが嫌で、ずっと恋心を隠している。
 無事に、心身ともに健康で退官する日を相澤と迎えたいと思っているから。

「うーん……」
「奈緒ちゃんもね、幸せな結婚して欲しいんだよ」
「はい……」

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