ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 住宅街を抜け、駅に向かう少し混んだ道を眺めながら、私は何とも言えない疲労感を感じつつ葉梨を見ると、またスマートフォンを気にしていた。
 車は信号で止まってはいるが、警察官としてはスマートフォンの所持、操作、画面注視はだめだ。だが、葉梨の表情が少し、曇った。
 プライベートだろう。恋人だろうか。

 葉梨ヒストリーは中学入学で今日は終わり、続きは次だと御両親から言われている。次もあるのか――。
 だが今の葉梨のプライベートは知らない。知った方が良いと思うが、今は仕事を一緒にしているのではないから、それは不要な情報だと私は思っている。だが言ってあげないと、先輩の私が言わないと、真面目な葉梨は私を優先させてしまう。

「ねえ、葉梨」
「はいっ!」
「プライベート、最優先させなよ」
「えっ……」
「会うの、しばらくやめよう。電話とかメールも、優先させなくていい」

 葉梨は黙ってしまった。
 警察官は仕事故に恋人と長続きさせるのは難しい。葉梨は生活安全部だ。尚更、難しい。
 そこに私と関わらなくてはならなくなったのだ。
 このままでは恋人と終わってしまうかも知れない。葉梨の様子は、それを表している。

「葉梨、優先順位は、間違えてはいけない」
「あの、えっと……」
「私を優先させなくていい。分かった?」
「…………」
「返事は?」
「はいっ!」

 私は葉梨の顔を見た。喜んでもらえるかなと思ったのだが、違った。喜色は無かった。
 無理もない。先輩からそう言われても額面通りに受け取るべきなのかそうではないのか悩むだろう。ならば私は嘘をつけばいい。

「葉梨、私さ、二ヶ月は戻って来れない(・・・・・・・)から、八月末か九月頭に連絡するから」
「えっ……」

 七月は松永さんに拘束される予定だが、長引く気がする。

「岡島には言っとく」
「……はい」

 自宅マンション付近まで送ってもらい、私は「大切にしてあげなよ」と言って、桐箱入りのカステラを抱えて車を降りた。
 食べ頃は三日後、らしい。


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