ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第14話 カステラと陰謀論と壁ドンと

 六月十八日 午後十時二十六分

 私は今、カステラを食べている。
 食べ頃を迎えた桐箱入りのカステラを食べている。
 美味しい。すごく、美味しい。
 語彙力の無さ故に『美味しい』としか言えないが、このカステラは美味しいのだ。コンビニのレジ脇にあるカステラとは違う。そのカステラとは違う美味しさがあるのだ。
 だが私は思った。
 食べ始めたら、食べ終わりがある――。
 だとしても私は、このカステラを、美味しいカステラを、また食べたい。
 ならば私に出来る事は一つだ。カステラの保存方法をインターネットで検索しよう。私はそう思った。

 検索しようとカウンターに置いたスマートフォンを私は指先で引き寄せた。
 親指と人差し指はカステラの紙を剥がした時に汚れたから中指で引き寄せたのだが、その時、私はふと思った。科学技術大国ニッポンのはずなのに、なぜ、このカステラの紙は今でもこうなのか、と。

 そっと剥がしても甘くて美味しいあの部分が、ザラメ糖が、紙に付いたまま剥がされる。
 日本の製紙技術は素晴らしいものだ。だが令和の今でもあの紙はカステラにへばり付いている。
 研究者だってカステラの紙について思う事があるだろう。でもあの紙はカステラにへばり付いている。
 だから私は思った。きっとこれは、何か大きな力が働いているのだ、と。

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