ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ

第15話 ギャルとたかピとキャバ嬢と

　メッセージアプリをタップして松永さんのトーク画面を見ると、七月二日の午後十一時半に待ち合わせだと書いてあった。

　――どこに、ですか。

　私はどこで四つ目の壁ドンをされるのか考えて、頭を抱えた。
　だが待ち合わせ場所はどこなのか、その旨を返すと松永さんから『決まったらまた連絡する』と返って来た。

　松永さんは遅くても三日前までには連絡をくれる。
　場所によって服装やヘアメイクを変えないといけないから、その準備の時間を松永さんは与えてくれる。
　だが以前はそうではなかった。

　四年前、日付と時間を指定され、詳細は教えてくれずにただ『飲むよ』とだけ言われ、私はすっぴんジャージで行った。
　プライベートだと思ったし、待ち合わせ場所が当時住んでいた官舎最寄り駅だったからジャージで行ったのだ。
　だが待ち合わせ場所にスーツを着た松永さんがいて、私を見ると膝から崩れ落ちそうになっていた。

　松永さんにしこたま怒られたが、私は言い返した。松永さんの逃げ道を塞ぎ、理詰めで追い詰めた。理不尽には慣れているが、女の舞台裏がどれだけ大変なのか、松永さんに分かって欲しかったのだ。
　そのおかげが、少し優しくなった松永さんは準備に時間をくれるようになった。

　――あ、服装を聞かなきゃ。

『服は何を着ればいいですか』
『全裸で』
『バカなんですか？』
『よくご存知で』
『それで』
『ギャル』
『本気で言ってます？』

　――アラサー女にギャルはないだろう。

　既読が付かないなと画面を見ていると、既読が付いてやはりギャルが良いと言う。
　理由を尋ねると、確かにギャルが良いなと思わされる事だった。だがアラサー女にギャルはキツい。出来ない事は無いが、出来ればやりたくないのだ。
　ギャルの年齢に見合った女性捜査員はいないのかと問うが、私でなければならないと言う。
　私はしぶしぶ了承するメッセージを返した。

　――気合い入れて、ギャルメイクしてやる。

　私はサンドバッグ探しをやめてギャルメイクのチュートリアル動画を探す事にした。