ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 七月二日 午後十一時二十分

 私は今、繁華街のコンビニ前でスマートフォンを見ながら突っ立っている。

 松永さんから指定された待ち合わせ場所がここなのだが、松永さんは私に気づかず私を探している。目の前を通り過ぎるのは三回目だ。
 
 私はタイトな黒いワンピースに白いパーカーを着ている。お姉様系ギャルというカテゴリーがあるようで、アラサー女はそれしか無いだろうと私は準備した。だがそのおかげでいろんなタイプの男からナンパされて困っている。早く気づいて欲しい。

 松永さんが私にギャルで来いと言ったのあの日のメッセージは、文字からテンションの高さが伝わって来るものだった。

『初めてザイル系やってみる!』
『だから奈緒ちゃんギャル!』
『お願いね!』

 私は日サロに通う時間も勤務時間に含まれるのだろうかと思いながら、私を探すザイル系松永に早く気づいて欲しいと思った。

 松永さんがキョロキョロと私を探して目の前をまた通り過ぎた時、さすがにもう待てないなと思って松永さんを追いかけた。

 私は髪を右耳に掛けて、ザイル系松永の左腕にしがみついた。そして私は言った。

「たかピってばあたし置いて通り過ぎるってマジありえなくなーい? てかたかピ今日マジ鬼ヤバッ! 超ザイルっぽ! マジたかピよきー」

 そう言って松永さんの顔を見た。見たのだが、声音を変えた上にギャルメイクの女が私だと認識してからいろいろ考えたのだろう、体感一秒でザイル系松永から発せられた言葉は「うん」だった。

 ――もっとこう、他に、あるだろう。

 アラサー女が必死に繰り出したギャルっぽい言葉にもっとこう、何か言え。恥ずかしいじゃないか。私はそう思った。
 だが松永さんはこう言った。

「やりすぎ」

 この世は理不尽だ。私はそう思った。

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