あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に

3.盛岡手作りお弁当を温める

「⋯思えばあれがキッカケだったわね、アイツからのお弁当」

もう何年も前の事を思い出し、懐かしさからクスリと笑いが溢れる。
嫌な同期だと、気に入らない同期だとずっと思っていたはずなのに縁というのは不思議なものだ。

“⋯あの頃って今よりもがむしゃらで、料理も適当だったから⋯手作りって本当に滲みたなぁ”

昼休みに渡されていたあのお弁当がなんだか懐かしくなり、少し感傷的な気分になる。

「⋯今更、ね⋯」
あれから何年もたったからこそ、当時まともにお礼も言わなかった事に後悔を抱いた。


『ありがとう』『嬉しい』
たったそれだけで良かったはずなのに。

意地をはった私は、少しムスッとしながら受け取るしかしなかった。
それなのに、何故か彼はいつもお弁当を持ってきてくれてー⋯




ー⋯盛岡いわく、詰めるだけなら一人分も二人分も変わらない⋯と、毎日お弁当の施しを受けていた当時の私。

気付けばサイズの大きかった盛岡のお弁当箱ではなく、少し小さめの⋯まさしく女性にピッタリなサイズのお弁当箱になっていた。


そして明らかに『私用』に変わったサイズのお弁当箱を毎日事務室で渡されるということはー⋯
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