五十嵐くんに、食べられそうです。
ようやく学校についたので急いで駐輪場へ向かった。
グラウンドから聞こえる部活動生達の声は、夏休みということもあり、普段ほど賑やかではない。
いつもよりがらんとした駐輪場の1階の奥に自転車を停めてガチャンと鍵を掛けた。
そのまま駐輪場の裏に回って、高い植木沿いに進み、人一人通れるスペースが空いてるのを見つけると、そこを抜けて男子寮の建屋が見える位置に辿り着いた。
夏休みだから人も少ないはずだけど、一応、誰もいないことを確認しながら植木の隙間を抜け、寮の建屋に近づいた。
すぐそばにある1階の角部屋の前で立ち止まり、バッグから出窓の鍵を取り出して解錠する。
出窓の鍵は翔くんから終業式の日にデートしている時に渡された。
『俺の部屋に出窓から入っていいのなんて、紗英くらいだからさ。』
と、嬉しそうに笑って渡してくれた。
その時の翔くんの爽やかな笑顔を思い出して、思わず顔がほころぶ。
早く会いたい。