花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「……なんで、もう……!」


踏んだり蹴ったりの状況に、我慢していた感情と涙が決壊した。

ブーケは転んだ瞬間に自身の体重で一部を押しつぶし、さらに歩道にたたきつけたせいで無残な状態になっていた。

まるで現在の自分の姿みたいで、心がヒリヒリ痛んだ。


「ごめんね……」


花にはなんの罪もないのに。

ブーケを拾わなきゃと考えるが、体が鉛のように重い。

街灯に照らされた自分の姿を見ても大きなケガはしていないとわかるのに、力が入らず子どものように蹲ってしまう。

頭の中に数分前のふたりの姿が浮かび上がる。


ねえ、どうして? 


なんのために私を叩きのめすの?


今のふたりの邪魔もしていないのに。


むしろ怒るのは私でしょう?


心の中でしか責められないなんて、意気地なしの負け犬だ。

こんな私じゃ、誰かと付き合ってともに歩む未来は来ない。

でもずっとひとりは嫌だし、寂しい……弱い自分が大嫌いだ。

うつむき、新しい涙の雫が地面を濡らしたとき、誰かが駆け寄ってくる足音がした。


「申し訳ない、大丈夫ですか?」


いいな、心配してくれる人がいるなんて羨ましい。


「どこかケガをされていませんか? 痛むところは……?」


私は、ひとりなのに。
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