花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
孤独感に打ちのめされた瞬間、視界に色とりどりの綺麗な花が見えて驚く。

思わず顔を上げると、眼前に大きな花束を抱え、跪く男性がいた。

私の顔をひと目見た男性は、綺麗な二重の目を見開いて口を開く。


「水たまりをよけきれず、ご迷惑をかけて本当に申し訳ございません」


「あの……え……?」


突然の謝罪よりも男性の整いすぎた容貌に驚いた。

切れ長の目を縁どる長いまつ毛、通った鼻筋に艶やかな肌……欠点の見当たらない面差しに現状を忘れて見惚れてしまう。

長めの黒い前髪をかき上げた彼が、さらに言葉を紡ぐ。


「立てますか?」


大きな手が私の手をそっと握り、体を支えて起こしてくれた。


「ケガをされていますね……服も汚してしまった」


「いえ……平気、です」


ハッと我に返り、急いで返答する。

醜い泣き顔と散々な姿を、こんな完璧な人の前でいつまでも晒したくない。

考え事をしていてバランスを崩したのは私なのだから。

どこまでも無様で惨めな自分に涙が止まらない。


「……泣かないで」


そっと長い指が遠慮がちに頬に触れ、驚いて後ずさる私の腰を大きな手が引き寄せた。

細身なのに、力強い手は少しの抵抗では離れない。


「は、離してください。大丈夫です。後から文句も言いませんので……」
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