花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
これだけ身なりも面差しも整っているのだし、後々言い寄られるのを危惧しているのだろう。

ところが、男性は私の発言に首を傾げた。


「手当をさせてください。落とした花の代わりにはならないでしょうが、これを受け取っていただけたら」


私の発言を聞き流し、ほんの少し体を離した彼は大きな花束を差し出した。


「こ、こんな立派なお花、受け取れません」


ブーケの三倍近い大きさの花束にはバラ等の綺麗な花があり、明らかに高価そうで気軽に受け取れるものではない。


「友人に渡された深い意味のない花束です。私は出張が多いし、持って帰っても枯らすだけのうえ、花瓶もない。助けると思ってもらっていただけたら」


真摯な眼差しで花束を腕に押しつけられ、思案しつつ花を覗き込むとふわりと優しい香りが漂って自然と頬が緩む。


「ダメですか?」


「……では、すみません。お言葉に甘えていただきます」


最悪だった今夜の記憶が、少しだけ嬉しいものに置き換わる。

素敵な花を眺めながら今夜はお気に入りの紅茶を飲もう。

ひとり暮らしの部屋にストックしてある銘柄を思い浮かべていると、男性は私の足元に散らばる花を拾い集めてくれた。

慌てて一緒に拾うと彼は集めた花を片手に握り、もう片方の手を差し出した。

拾った花を渡すためだと思い、手を出すとギュッと強く握られそのまま踵を返して歩き出した。
< 17 / 190 >

この作品をシェア

pagetop