花縁～契約妻は傲慢御曹司に求愛される～
「付き合っていた人が浮気をしていて……相手が後輩で……全然気づかなかったんです」


鈍感すぎますよね、と付け足して先ほどまでの出来事をかいつまんで話した。

さらに心が疲弊していた私は両親の件も吐露してしまう。

暗い身の上話に男性は相槌以外一切口を挟まず、真剣に耳を傾けてくれていた。


「――馬鹿だな」


「そうですよね、知らずに復縁しようと的外れな行動をしていて……」


「違う、その元彼氏が女を見る目のない、馬鹿な男だ」


信号が赤になり、車が停止した途端、男性が真剣な表情を私に向けた。


「俺なら絶対に君を選ぶ」


きっぱりと言い切られ、目を見開く。

ドクドクと一気に鼓動が速まっていく。


落ち着いて、慰めてくれているだけよ。


本気にしちゃダメ。


「あ、ありがとうございます……」


礼を告げると、一瞬不思議そうに首を傾げた男性はクックッと楽しそうに声を漏らす。


「どういたしまして。そんな反応をされたのは初めてだ……面白いな」　


反応がよく理解できず、今度は私が首を傾げる番だった。


「最低な男のために泣かなくていい。あのブーケは俺が引きとるから全部忘れてしまえ」　


思いやりのこもった命令に目頭が熱くなり、必死に唇を噛んでこらえる。

見ず知らずの男性の前で何度も醜態を晒すわけにはいかない。


「傷になるから、噛まないで。泣きたいなら泣けばいい。今夜ひどい目に俺が合わせたのだから」


言い訳のように、泣く理由を用意してくれる優しさが胸に染みて、こらえきれずに頬を涙が伝った。
< 20 / 190 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop