花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
彼は片手で数分前のように私の頭を撫で、青信号を見つめてゆっくりと車を走らせた。

大きな手の温かな感触に、ますます涙が止まらなくなった。


「今夜のお詫びになにか願いを叶えたい」


「話を聞いて慰めてくださっただけで十分です。私が勝手に転んだんですから」


涙が落ち着いた頃を見計らって話しかけられる。

強引なように見えて、とても親切で優しい人だ。

道端で蹲る私を謝罪だけして放っておくこともできたのに、見捨てなかった。

車に乗せ、話を聞いて慰めてくれた。


「俺も今夜はひとりがつらかったし、花を持ち帰りたくなかった。だからもらってくれて助かったんだ。その礼をさせてほしい」


そう言って、ブレーキをかけた男性はエンジンを切り、運転席を降りる。

後部座席から花を取り出した後、助手席のドアを開けてくれた。

外に出ると目の前には、親会社が関わり、最近開業した都内の高級ホテルがあった。



「あの、ここって」


「君の願いはなに?」


混乱しつつ発した私の問いを無視して、質問を重ねる。


「言って」


花束を車のボンネットに置き、彼が目の前に立つ。

私の指に自身の指を絡め、さらに頬に大きな手で触れ、近すぎる距離と親密な触れ合いに息を呑んだ。


唐突で有無を言わさない物言いなのに、私を見つめる目は真摯で、触れる指先はとても優しい。

下手な遠慮や気遣いを無視して甘えてしまいたくなる。
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