花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「着ていて」
パサリと肩に彼のスーツの上着がかけられた。
私の上半身を覆う大きな上着に残った香りと温もりに、一気に体温が上がる。
「小さいし……細いな」
大きな花束を脇に抱え、上着を着た私の袖を軽く捲りながら彼が独り言のようにつぶやく。
彼の一挙一動はすれ違う人の視線を釘づけにしていた。
周囲の視線の強さに耐えかねて下を向くと、泥が飛んで濡れた衣類と無残に破れたストッキングに包まれた自分の足が見えた。
だから上着を貸してくれたのか、と遅ればせながら気づく。
「寒くないか? 悪い、もっと早く着せたらよかった」
頭上から降ってきた問いかけに顔を上げ、首を横に振る。
「……遠慮して、嘘をついたらキスするぞ?」
グイッと絡ませた指ごと体を引き寄せられ、バランスを崩し、彼の胸に飛び込んでしまう。
至近距離に迫る完璧な面持ちに目を見開く。
「本当です!」
口角を上げた彼に従業員らしき男性が声をかけた。
「準備はすべて整っております。お花はこちらでお預かりいたします」
花束を渡した後、ふたりは穏やかな雰囲気で言葉を交わし合う。
お召し物は後で取りに伺います、と言った男性従業員に礼を告げ、フロントを通り過ぎて最奥のエレベーターホールへと私の手を引いて歩き続ける。
パサリと肩に彼のスーツの上着がかけられた。
私の上半身を覆う大きな上着に残った香りと温もりに、一気に体温が上がる。
「小さいし……細いな」
大きな花束を脇に抱え、上着を着た私の袖を軽く捲りながら彼が独り言のようにつぶやく。
彼の一挙一動はすれ違う人の視線を釘づけにしていた。
周囲の視線の強さに耐えかねて下を向くと、泥が飛んで濡れた衣類と無残に破れたストッキングに包まれた自分の足が見えた。
だから上着を貸してくれたのか、と遅ればせながら気づく。
「寒くないか? 悪い、もっと早く着せたらよかった」
頭上から降ってきた問いかけに顔を上げ、首を横に振る。
「……遠慮して、嘘をついたらキスするぞ?」
グイッと絡ませた指ごと体を引き寄せられ、バランスを崩し、彼の胸に飛び込んでしまう。
至近距離に迫る完璧な面持ちに目を見開く。
「本当です!」
口角を上げた彼に従業員らしき男性が声をかけた。
「準備はすべて整っております。お花はこちらでお預かりいたします」
花束を渡した後、ふたりは穏やかな雰囲気で言葉を交わし合う。
お召し物は後で取りに伺います、と言った男性従業員に礼を告げ、フロントを通り過ぎて最奥のエレベーターホールへと私の手を引いて歩き続ける。