花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「……俺にだけ、全部見せて」


甘さの交じった低音で請われて、息を呑んだ。

今さらながら“彼のお願い”の返事をしていなかったと気づく。

顎から離れた骨ばった指が戯れに髪に触れ、口づけを落とす際に妖艶な眼差しで射抜かれて身動きができなくなる。


「逢花をくれないか」


とどめのようなひと言に、自然と首を縦に振っていた。

凛がいたら雰囲気に流されすぎだと叱るだろうが、今は私を必要として、求めてもらえるのが嬉しくて幸せだった。


「ありがとう」

 
眦を下げた葵さんが再び私を横抱きにする。

やはり慣れない浮遊感に戸惑う私に何度も大丈夫と告げて、寝室へと足を進める。

途中に視界に入った部屋の数と豪華さに圧倒される。


「あの、せめてシャワーを……私、転んでいますから……」


「大丈夫、後で一緒に入ろう」


「いえ、ちょっと待ってくださ……」


抗議の声が彼の唇で塞がれる。

この短い間で知らされた、しっとりした柔らかな感触に思考が簡単にかき乱される。


「……抱きたい」


端的な言葉に心がズクリと疼いた。

寝室へと到着し、私を片手で抱えドアを開ける。

間接照明に照らされた八畳ほどの空間に、大きなキングサイズのベッドがあり、正面の窓は分厚いカーテンで覆われていた。

葵さんはベッドの真ん中に私をそっと下ろして、自身の足の間に私を閉じ込めつつゆっくりと覆いかぶさってくる。

無言で私のスーツの上着を取り払い、自身のネクタイを骨ばった指で緩める。

露になる喉ぼとけと男らしい仕草に鼓動がどんどん速まっていく。
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