花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
「――逢花に似合いそうだな」


すぐそばで聞こえた声に驚いて首を動かすと、隣に完璧な容貌の長身の男性がショーウインドウを見つめていた。


「やっと、見つけた」


「なんで、ここに……!」


目の前に佇む葵さんに思わず声を上げると、唇に長い人差し指が触れた。


「周囲に気づかれたくないから、大きな声は出さないで」


真剣な眼差しに、ほんの少し落ち着きを取り戻して小さくうなずく。

そうだ、あの画面にはまだ彼が映っていて、大勢の女性たちが足を止めて、写真を撮っている。

本人がいるなんて知れたら、大騒ぎになってしまう。


「パーティーにでも行くの?」


私の質問には答えず、指を外して問いかける。


「後輩の、結婚式があるので……」


私の簡潔な答えになにか気づいたのか、彼は片眉を上げた。


「なんで、黙っていなくなった? なにか嫌な思いをさせた?」


ドレスに視線を向けたままの問いに、首を大きく横に振った。


「違います。お仕事中のようでしたし、素敵な思い出をいただいたから……」


あの一夜で悲しかった心が癒されて、出会ったばかりで惹かれるのが怖かったなんて言えない。


「突然いなくなったら、心配する」


「……ごめんなさい」


「もう一度会いたいと思って、捜していた。連絡先を聞いてなかったのを後悔した」


ふい打ちの言葉に、ドクンと鼓動が大きな音を立てた。
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