逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
白い、もの
 商人のカライルの屋敷に職人が来ていた。
 彼は大きな白い物体を前に途方に暮れている。

「だんな様、これはどうにもこうにも刃がたちませんぜ」
 手に大きな鉈を持っていた。物体にいく度か刃を立てようとした。しかし少々の傷がつくだけでびくともしない。

「解体しろと言われてもこんな奇妙な物体は見たこともありませんので」
「しかし分解せんことには、剣にも楯の材料にも使えんだろうが」
「はあ、その通りなんですがね・・」
 職人は頭を掻いた。

 その屋敷の外側、塀に隠れるようにして様子を窺っている者がある。

 外套のフードを目深にかぶって顔は見えない。しかし肢体はひどく小柄で子供のように思えた。

 彼は辺りを見渡した。
 向こうの塀に添うように高い木がある。それに近づいてよじ登る。

 庭の中央に大きな物体があった。
 その側で二人の男が話をしている。

 家の主人らしき男が職人に向かって、
「まあいい、他の職人を当たってみる。もっと腕のいい奴がいるかもしれんからな」
「・・はあ、さようで」
 職人はすごすごと帰っていった。

 カライルは物体の前に立って腕を組んだ。
「はてさて困ったものだ」
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