逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 そんな成り行きを、木の上の少年が見ていた。

 その彼がいる道路に、一台の馬車が近づいてきた。
 王宮の仕事を終えたアーロンが乗った馬車だった。

 塀の中では物体が奥の庭に運び込まれようとしている。

 すると木の上の少年が大声を上げた。
「ソレハオレノダ、ソレハオレノダ」
 奇妙な発音で呪文のように繰り返している。

 庭の中門がガシャンと閉められた。

 と、身を乗り出していた少年がバランスを崩した。足を滑らせて落下する。

 その下をアーロンの馬車が通っていた。

 ドスンと大きな音がした。
 アーロンが飛び出してくる。
 屋根の上に、痛みで顔をゆがめた少年がいた。彼はやけにまっ白い肌をしていた。

 御者が目を剥いて、
「こらっ、お前何をしているのだ。これをどなたの馬車だと思っているのだ。軍の最高司令官であるアーロン・・」

「いや、大声を立てるな」
 アーロンが制した。白い少年をじっと見てから、
「この者は、このままうちまで連れて行こう」

「・・は、はあ、さようで」

 御者は首を傾げながら、少年を馬車に乗せた。


          * * * * *

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