逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「およしなさいませ」
 ウオッホン、と咳払いがした。

「お二人ともお客人の前ですぞ」
 ここの執事らしい男だ。
 まじめくさっているが、どこかで笑いを堪えている。

 意外だった。
 アーロン・ハインツはこの国の最高司令官だ。その彼がこんなふうに言い合うなどと。
 (あるじ)と使用人の会話ははずみ、そこに垣根など無いように思えた。

 アーロンは席に着き、ソフィーにもうながす。
 静かに食事が始まった。

 座っているのはこの二人のみ、侍女長や執事は壁際で見守っている。
 アーロンは生涯独身だった。この国では承知のことで、だから食卓を囲む家族の存在がないのだ。


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