逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 山間が黒く埋め尽くされている。
 見渡す限りのバッハス兵が行軍していた。

 前衛を騎馬隊が、それに指揮されて大勢の歩兵が続く。
 歩兵は甲冑はおろか剣も携えていない。身軽に駆けている。

 馬に曳かせた荷車が随行していた。それにすべてを収納していると思われた。
 彼らの足は跳ぶようだった。
 川の浅瀬を、勾配のある農道を突っ走っていた。


 そんな大軍のあとを追う者がいた。
 藪に、岩陰に、巧みに身を隠して疾走している。

 グリント―ルの斥候兵(せっこうへい)だった。

 隊長らしき人物が一人、周囲を固めている兵が十人。
 まるで音を立てず追っていた。
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