逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「とうとう来たわね!」
 ソフィーが岩陰から身を乗り出した。

 遠くの山に黒々としたものが見える。大きな集団が近づいていた。
 何千だろうか、万を超える数だろうか、ここからではわからない。

「大丈夫でしょうか、もしここが見つかったら」
 侍女が不安げに言う。

「落ち着いて。この山にはあんな大軍が進めるほどの広い道はないわ。あちこちの道を小隊に分かれて来るはずよ。だからあの数にのまれてはだめよ」

 ヴェンも続けて、
「それに奴らは山の裾野を通るはずだ、いっときも早く王都へ行くためにね。だからこの洞窟がある中腹まで来たりしない。大丈夫だこのままやり過ごせるはずだ」
 
 それは回りの負傷兵にかける言葉でもあった。


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