逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
山の奥にあるもの
 夜の坂道をソフィーが登って行く。

 岩だらけの小道で足場が悪い。
 両手には薬が入った大袋、それでもしっかりした足取りだった。

 後ろを行くヴェンの肩にはそれ以上の荷物がある。
「なんだってあんなに身軽なんだ、ほそっこい体をして。しかも領主の令嬢っていうのにさ」

 肩にめり込みそうな荷物を背負い直そうとする。
 その拍子ソフィーが振り向いた。呟いたつもりが聞こえたのだろう、その顔が微笑んでいる。
 なんだか胡散臭そうな笑いに見えた。

『撒かれるなよ』

 出がけにアーロンに言われた。
『この娘は、たぶんお前を撒こうとする。目的地を教えたくないからだ。決して撒かれるな、そして行先と事情を確かめてこい』
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