逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
怒涛の濁流
 夜のとばりがおりていた。 
 王宮のあちこちに篝火が灯っている。
 
「なにっ、またしてもいなくなったのか?」
 バッハスの襲撃に備えて大勢の兵が配備されていた。
 その中をシュテルツが早足で歩いている。

「・・はい、その、小一時間前まではいらっしゃったのですが」
  突然姿が見えなくなったのだと。

「いったい何をやっているんだ。今夜敵が来ると言ったのはアーロンだぞ、夜が明けたら王宮に突撃してくるはずだと。それなのに急にまた」

「・・はあ」
 兵は自分が叱られたように恐縮した。

 きのうは半日姿が消えていた。

 帰還した彼を問い詰めると、
「まあそういきり立つな。こっちはこっちで大事な用に出向いていたんだ」
 とぼけた返事をしたものだ。

 その舌の根も乾かないうちに・・。

「とにかく各隊が持ち場を堅守するのだ、相互に連絡を取って隙をつくるな」
 腹立ちまぎれのように怒鳴った。

 
          * * * * *

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