逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
「ではエレナは誰からもらったのか、聞いているか」
「あ、いえ、もらったのではなく、人の財布から拝借したのだと言っていました」

 言葉の端から(ほころ)びが出て来る。
 女もそれを察したのだろう、一歩後ずさった。

「人の財布だと?」

「はい。その男はいつも危ない橋を渡らせるくせに満足な小遣いもくれないからって、だからくすねてやったのよと」

「くすねたですって? エレナがその男から盗んだというの。それをあなたは自分の物にしているというの」

「ご、ごめんなさい。私はこれ以上なにも知らないんです、本当です」
 
 そう言って後ずさる。
 リズが止めるのも聞かず走り去った。

「まったく、使用人のしつけも出来ておりませんで重ね重ね申し訳ありません」
 
「それでも聞かれた事には最後まで答えるべきだろう」
 
 リズが再び恐縮する。
 片方はそっぽを向き、片方は肩を落としている。

「・・あの」
 いたたまれずソフィーが、
「彼女は恐かったのですよ、あなたが」
「恐いだと? 俺が何をしたというのだ、ここでエレナの話をしただけだろう」

「そうですけど、あなたは迫力があり過ぎるのです。途中から彼女の手が震えていましたもの」
「なんだそれは。要は事実を探って調べることだ、そうしなければ何もわからんだろうが」

「でも私は、彼女の気持ちが分かってしまって。この間だって・・」
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