逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
望む本能のままに
 玄関先に馬車が横付けされていた。
 外出着をまとった女性が乗り込もうとしている。

 その足がふと止まった。
 屋敷の大門から入って来た騎馬の一団に気付いたからだ。

「まあ、アーロン様」
 駆け寄ったのはこの屋敷の侍女長のリズだった。

 入って来たのはアーロンを先頭にソフィー、その後ろにヴェン、そして側近の数人が続いている。

「どうしたのだリズ、こんな時間にいったいどこへ行こうというのだ」
 あたりはもう夕暮れだった。

「間に合ってようございました。実は、さきほど業者から連絡があったのです。注文していた例の寝具や薬品が届くとのことで、今から受け取りに行ってまいります」
「ああそうか、ご苦労だな」

 リズはアーロンの横にいるソフィーに目をやった。
 うやうやしくお辞儀をしてから、
「ようこそおいで下さいました。ソフィー・ラクレス様でございますね」
 包み込むような笑みを向けた。



< 343 / 479 >

この作品をシェア

pagetop