逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
庭に潜む男
 ア―ロンが手早く外出着を着込む。
 外に出ると馬丁(ばてい)が馬を用意していた。

「心配せずに君は先に休んでいてくれ」
 ソフィーに声をかけた。
「もしかして王宮に詰めることになるかもしれない。しかし峠が過ぎたらすぐ帰ってくる。だから君はこの屋敷で待っていてくれるか」

 心配するな、と言ったがその声が緊張している。

 ソフィーは昼間会ったシュテルツを思い浮かべた。
 彼は温厚な笑顔を浮かべて語り掛けてくれたのだ。

「どうぞお怪我が大したことがありませんように」
 アーロンが側近らと駆け出して行く、その後姿に手を合わせた。

 その夜はまんじりともせずに明かした。
 始めての部屋で始めてのベッド、すべてに馴染んでいけない。
 それ以上にシュテルツの容態を思って眠ることが出来なかった。


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