逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
再訪
 霧がかかっていた。
 これほど白一面になるなど、滅多にはない。

 そんななかを一人の青年が歩いてきた。
 王宮の門番が誰何する。彼は一葉の紹介状を持っていた。
 シュテルツ直筆の身元証明書だった。そして彼が来たならすぐ自分に案内するように、との添え書きもあった。

 青年は長い廊下を歩いて行く。ときどき周囲の扉や窓を見やっている。何かを懐かしむような眼差しに思えた。

 治療室の前に来た。
 扉を開けると衝立があり、その奥のベッドにシュテルツが横たわっていた。
 肩を包帯で分厚く巻かれ、その所どころに出血の染みがある。

 青年が息を止めた。
 足早にシュテルツの側に行く。
「おひさし、ぶりです、シュテルツ様」
 膝をついて語りかけた。

「・・来てくれた、のだな」
 目を開けてかすかに言った。

「はい」

 シュテルツはかすかに笑って、
「よく来てくれた、オルグよ。きみに、頼みがあるのだ」


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