逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ソフィーは急いで自分の部屋に向かった。
 エレナは本を読んでいた。書棚にあった一冊だ。

「向こうの庭に、またあの男がいたのよ」
 侍女のそんな行動を(いさ)めるよりも先に、
「あの髭の男よ。彼は言ったわ、私を、ソフィー・ラクレスをここに呼んでくれと」

「・・え」

「彼は私を見ても本人だとわからなかったわ。エレナに頼んでもらちが明かないと言って。いったいあの男とどんな関係なの?」

 彼女は石のように固まった。

「あの男は今も庭で待っているわ。ソフィー・ラクレスをここに連れて来ない限り、今日は絶対帰らないからなと言って」
「・・・・」

「何があるのか、私に話してくれない?」

 エレナは再び本に目を落とした。
 しかしもうそれを読んではいなかった。そして、
「私は・・、あの男から逃げられないのよ」
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