逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 彼は花嫁が間近に来たとき目を見張った。
 足早に歩み寄ると、
「きれいだ、ソフィー。まるで女神のようだ、驚いたよ」

「あなたもでございます、アーロンさま」
 頬を染めて答える。

 ふだんあまり飾らない彼の、息が出来ないほどの姿だった。
 光沢のあるジャケットが鮮やかで、その内側にやや濃いウエストコートを着込んでいる。胸元には同系色のタイが締められ、すらりとした上背に礼服がピタリと決まっていた。そして端正な顔で微笑んでいた。

「目が、つぶれそうでございます」
「なにを。今日は君が主役なのだ。このドレスがこれほど似合うとは」
 と改めてしげしげと見る。
「いや、ドレスが君に負けているな。完全にソフィーは輝いているぞ」

 臆面もなく言う彼に、つい微笑みをこぼす。
 ア―ロンがソフィーを抱き寄せた。
 その肩先に顔をうずめる。

 その途端、周囲のため息が漏れた。それが次には歓喜に代わった。
 ワーワーという声が辺りを包む。

 家人らが心を込めた式が、いま始まろうとしていた。
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